2010/01/30 — Gus
TV Everywhere ってな〜に?
米国では2009年暮れ頃から注目を集めている TV Everywhere。Buzz ってますが、いったい何なのか正体不明なところが多い。というわけで、TV Everywhere についてまとめてみました。
TV Everywhere は ComCast と Time Warner が共同で発足させた認証システム。発表当初は “OnDemand Online” とも呼ばれていましたが、最近では “TV Everywhere” に統一されてる模様。何を認証するシステムかというと、ケーブルテレビの有料会員か否かと言うこと。 ケーブルテレビが発達している米国では月50ドルとか100ドルくらいを払ってケーブルチャンネルを購入しています。で、そのチャンネルを購入しているユーザがインターネットでも同じコンテンツを見られる仕組みを提供したいというのが思惑。毎月50ドル払っているケーブルテレビのユーザがケーブルテレビで見られるコンテンツをオンラインでも見られるよう、オンライン用認証システムがTV Everywhereです。 例えば・・・、僕が100ドル払って100チャンネルの有料ケーブルテレビに加入します。この100チャンネルの中には Discovery Channel が含まれていて、家のテレビで見られます。ネットで Discovery へ行きテレビで見たコンテンツを再生しようとしたときに、ケーブル加入しているアイデンティティ(ユーザ名・パスワード、お客様番号など)を入力すると、実際にケーブルテレビでDiscovery Channelをサブスクリプションしているので、ネットでも見られるようになります。この、ケーブルテレビを通してサブスクリプションに加入しているかどうか、を認証するシステムが TV Everywhere になります。 というと非常に簡単ですが、アメリカのケーブルテレビとチャンネルは複雑で数も多い。しかもユーザが動画を見るサイトもこれまた無数にあるので、結構大変な仕組みです。Discovery Channel は ケーブル会社 A と B が売っているが、どちらを通してもDiscovery Channelが購入できるので、オンラインで認証する際にはDiscovery Channelを買っていることだけではなく、どこのケーブル会社を通じて購入しているかもトラッキングする必要があります。じゃないと、ユーザが支払っているサブスクリプションのお金の分配が出来ないから。 僕が昔住んでいたバンクーバではRogers(ロジャース)、モントリオールではVideotron(ビデオトロン)というケーブル会社(ケーブルオペレータとかケーブルプロバイダとか言われることもあります。FCCでは MVPDs: Multichannel Video Programming Distributors と名付けています)が、スポーツチャンネルのESPN、Food Network とかDiscovery Channelのようなケーブルネットワークのチャンネルを販売しています。なので、Discovery Channel が見たいときはDiscovery Channelに購読を申し込むのではなく、RogersやVideotronなどのケーブル会社を通じて Discovery Channel を購入します。通常はスポーツパックとかエンターテイメントパックみたいな感じで、複数のチャンネルがバンドルされて月50ドルとか100ドルとかで売られています。ケーブル会社はサブスクリプションで得られる収入を、ケーブルネットワークに分配します。1ユーザ(サブスクリプション)当たり、数セントから$4ドルくらいの収益がケーブルネットワークに落ちます。ケーブルネットワークはこのサブスクリプションの収入の他に、番組の広告枠を販売し収益としています。ケーブル会社全体の年間売上げは500億ドル(約4兆5000億円)、サブスクリプションと広告収益で半分ずつくらい。 TV Everywhere が登場した背景は、昨今のプレミアムコンテンツのオンライン配信によるケーブル離れへの驚異があるのは明白。ケーブル会社を経由しなくてもプレミアムコンテンツが見れてしまうオーバー・ザ・トップ(OTT)の台頭で焦っているのは確か。ただし、Hulu.com で配信されているプレミアムコンテンツはケーブルケットワークではなく、テレビものです。テレビはサブスクリプションがないので元々広告収入だけに依存しているため Hulu.com へのコンテンツ提供はなじみやすい。反対にケーブルはテレビで有料会員しか見ることが出来ない番組を持っているので、Hulu.comのような広告モデルのOTTへのコンテンツ提供は消極的。 ComCast、Time Warner によって華々しくデビューを飾ったTV Everywhere ですが、問題がないわけではなく、むしろ山積み。 TV Everywhere やっても追加レベニューがない既存のケーブルテレビ加入者は今支払っているサブスクリプション料金のなかで、オンラインのコンテンツがみられるようになるので嬉しいのですが、事業者側からすると TV Everywhere で認証され、オンラインでコンテンツが見られるようになっても、売上げは変わらず。認証システムの開発や運用、動画配信のコストなどはどこから捻出するかというと、新規ユーザの獲得から、ということになり、経済的に短期間でアップサイドのあるビジネスモデルではない。 オンライン広告収入と配信帯域コスト
コンテンツがオンラインから配信されると配信に必要なCDNやストレージのコストが発生するので、これを誰が負担するのか、というのがいまいちはっきりしていない。オンラインでの配信では広告も入ることが予想されるが広告収入もどのように分配されるのか不透明。1つの番組が配信されると、それを買っているユーザ、ユーザが契約している地元のケーブル会社、番組を作ってるケーブルネットワークに加え、配信しているウェブサイトが加わり、ただでさえ複雑なモノが1社プレーヤが増えて余計に複雑になりそう。 加入するケーブルテレビ、コンテンツプロバイダーの足並み
ComCast, Time Warner Cable は加入するとして、その他のケーブルテレビ会社やコンテンツプロバイダーがどこまで加入するのか=コンテンツのラインアップがどこまで揃うのか、という挑戦。テレビ番組だけでなく、映画も配信されるようなのでハリウッドのスタジオもどこまで巻き込めるのか、というのが大きな挑戦。 インターネットの帯域
ケーブルテレビ会社は同時にISP事業も行っているので、コンテンツには課金しないけど、帯域の仕様には課金しますとか、毎月の制限を超えたら超過料金払ってね、ということいいだしかねない。 ケーブルテレビに有料加入しているユーザしか恩恵を受けないわけで、Hulu.com などの OTT プレーヤに驚異を持っているケーブルTV企業の対抗策として登場した TV Everywhere。新規ユーザが獲得できなくても、5兆円産業が守れればいいのかもしれません。ケーブルTV会社はテレビだけでなく、PC、ゆくゆくはモバイルでもプレミアムコンテンツを配信することを視野に入れ、ケーブルに加入しているとTVだけじゃなくて、どのサイトでもみれるよ、いうので囲い込みを狙っています。 TV Everywhere を使ったサイトが登場しました。カナダの大手ケーブル会社(電話会社でもあります)の ロジャース (Rogers) がベータ版とついてはいますが、立ち上げたサイト Rogers OnDemand(http://www.rogersondemand.com)。既に1000時間分のプレミアムコンテンツがアップされているとか。勿論Rogersのケーブルテレビに加入している人しか見ることが出来ませんが。
参考サイト
Everything you need to know about TV Everywhere